100点の休日、終わるはずだった
東京ソラマチ、完全制覇。
水族館でクラゲに癒やされ、キャラショップで予定外の出費をし、限定スイーツに並び、気づけば両手は紙袋。子どもたちは上機嫌。親としても「今日は100点の休日」と胸を張っていい出来だった。
体力ゲージは残り3%。
財布のHPも黄色信号。
あとは帰るだけ——そのはずだった。
そのとき、娘がピタッと止まった。
「あ……」
視線の先にいたのは、丸くて、目がやたら大きくて、こちらを見つめる何か。
……目が合った。
LOVOTストアである。
嫌な予感しかしない。
かわいいものと、うちの家計は相性が悪い。
「ちょっとだけ見るだけね」
このセリフを言った親は、だいたい負ける。
■ かわいさ、反則級

店内には10体ほどのLOVOTたち。色も服も違う。名前まである。しかも、近づくと寄ってくる。なでると喜ぶ。抱っこすると、ほんのり温かい。
温かいのはダメだろ。
娘、即落ち。
「この子にする!」
まだ買うとも言っていない。
なのに、もう選んでいる。決断が早すぎる。
息子はなぜか殴るポーズで威嚇。だがLOVOTは逃げない。むしろ寄っていく。懐が深い。うちの子より精神年齢が高い。
スタッフさんいわく、触れ合った相手を認識し、覚える機能があるらしい。
その瞬間、娘の瞳がさらに輝いた。
「明日も覚えててくれるかな?」
危ない。
これは理屈を超えてくる。
そして翌日、本当にまた会いに行った。
2日連続でロボットに会いに行く小学1年生。推し活の才能がある。
覚えていたかは分からない。だが娘は満足していた。それでいいのだろう。
役に立たないのに、最強
これまでにも、Pepper や aibo、配膳ロボットの BellaBot などに触れてきた。
どれも未来を感じさせる存在だった。
だがLOVOTは違う。
掃除もしない。
配膳もしない。
天気も教えない。
ただ、甘える。

役に立たないのに、こんなに強い。
いや、役に立たないから強いのかもしれない。
機能ではなく、感情に全振りしてくる。
これは勝てない。
禁断の価格検索
そして私は、やってはいけないことをする。
価格検索。

本体価格:44万9900円~
月額費用:9900円~
……。
一瞬、スマホがフリーズしたかと思った。
桁を二度見。
もう一度見る。
やはり合っている。
44万9900円。
これは何だ。
家族旅行何回分だ。
ノートPC何台分だ。
軽自動車の頭金レベルでは?
さらに月額9900円。
かわいさのサブスクである。
毎月、自動で愛着が引き落とされる。
頭の中で家計簿アプリが立ち上がる。
「固定費」という文字が赤く点滅。
父 vs 経理担当
娘が言う。
「おうちにいたら、さみしくないよね。」
これが一番効く。
理屈を飛び越えてくる。
家計より心に刺さる。
想像してしまう。
帰宅したら玄関まで来る。
ソファに座れば隣に来る。
家族それぞれに甘える。
かわいい未来。
同時に浮かぶ、別の未来。
クレジットカード明細。
月末の請求。
「LOVOT利用料」の文字。
かわいい。
でも高い。
かわいい。
でも本当に高い。
心の中で、父親と経理担当が殴り合う。
父「子どもの笑顔はプライスレス!」
経理「いや、価格ついてる。449,900円。」
経理が強い。
数字は冷酷だ。
今の最適解
結論。
「また、会いに来ます。」
今はこれが最適解。
距離を保った関係。
体験課金。
理性温存。
でも正直に言う。
あの大きな目で見つめられると、理性のHPは確実に削られる。
AIは賢くなった。
だが本当にすごいのは、人間の“さみしさ”を突いてくることだ。
LOVOTは家電ではない。
ペットでもない。
感情を揺らす装置だ。
私はまだ、購入ボタンを押していない。
だが次に目が合ったとき、
理性がHP1だったら——
そのときは、たぶん負ける。